「日本の瓦屋根って、渋くて格好いいけど、どれも同じように見える…」
「家を建てるなら、やっぱり瓦屋根にしたい。でもカタログを見ると『釉薬瓦』とか『いぶし瓦』とか書いてあって、何がどう違うのかさっぱり分からない」
「デザインや性能、将来のことまで考えて、自分の家に本当に合うのはどっちの瓦なんだろう?」
日本の美しい風景を構成する、伝統と機能美の象徴「瓦屋根」。
新築やリフォームで、その永続的な価値を持つ瓦屋根を検討する際、多くの方が「釉薬瓦(ゆうやくがわら)」と「いぶし瓦」という、二つの大きな選択肢に出会うはずです。
どちらも同じ「粘土瓦」というカテゴリーに属しながら、実はその製造方法、見た目の美学、そして時間とともに紡がれる物語(経年変化)に至るまで、全く異なる個性と哲学を持っています。
この2つの瓦の違いを深く、そして本質的に理解することは、単に屋根材を選ぶという行為を超え、これから始まる暮らしの風景や、住まいへの愛着を育むための、非常に重要なステップなのです。
この記事では、そんな「釉薬瓦」と「いぶし瓦」の違いに徹底的に焦点を当て、それぞれの持つ独自の魅力と歴史的背景、性能、そしてどちらを選ぶべきかの具体的なポイントを、初心者の方にも分かりやすく、どこよりも詳しく解説していきます。
釉薬瓦といぶし瓦、その違いは「最終工程」にあり
釉薬瓦といぶし瓦は、どちらも良質な粘土を瓦の形に成形し、1,100℃を超える高温の窯でじっくりと焼き上げるという、基本的な製造プロセスを共有しています。いわば、同じ素材から生まれた兄弟のような存在です。その兄弟の運命を最終的に分けるのが、焼き上げる際のクライマックス、「最終焼成工程」の違いです。
| 瓦の種類 | 最終工程のポイント | 結果として生まれる特徴 |
|---|---|---|
| 釉薬瓦(陶器瓦) | 瓦の表面に釉薬(うわぐすり)を塗り、窯に酸素を十分に供給しながら焼き上げる(酸化焼成)。炎の力で釉薬を溶かし、ガラス質の膜を形成させる。 | 表面がガラス質でコーティングされ、多彩な色彩と、水も汚れも寄せ付けない強い光沢が生まれる。 |
| いぶし瓦 | 瓦をしっかりと焼き締めた後、窯を密閉して酸欠状態にし、不完全燃焼させたガスで燻す(還元焼成/燻化)。煙の力で表面に炭素の化学反応を起こさせる。 | 表面に独特の渋い光沢を持つ銀色の炭素膜が形成される。 |
この製造方法の違いが、見た目はもちろん、メンテナンス性や経年変化といった特性に、大きな差を生み出しているのです。
それでは、それぞれの瓦が持つ唯一無二の魅力について、さらに詳しく、深く見ていきましょう。
釉薬瓦(陶器瓦)とは?色褪せない、永遠の輝き
釉薬瓦とは、粘土で成形した瓦の表面に、ガラス質の粉末である「釉薬」を塗布し、高温で焼き上げた瓦のことです。その製法は、私たちが普段食卓で使っている陶器のお茶碗やお皿と全く同じ原理であり、そのため「陶器瓦」とも呼ばれます。この呼び名の方が、その性質を直感的に理解しやすいかもしれません。
釉薬瓦のメリット・魅力
- 無限の可能性を秘めた、多彩なカラーバリエーション
釉薬に混ぜる金属酸化物の種類や配合、焼成温度を調整することで、黒、青、緑、茶色、オレンジといった定番色から、複雑な混合色まで、非常に多彩な色合いを自在に表現できるのが最大の魅力です。これにより、伝統的な和風住宅はもちろん、モダンなシンプルハウス、南欧プロヴァンス風の洋風住宅まで、建物のデザインコンセプトに合わせて完璧なコーディネートが可能です。 - 色褪せない、変わらない美しさという「不変の価値」
表面は硬いガラス質の膜でコーティングされているため、強力な紫外線や酸性雨といった過酷な自然環境に長年さらされても、その影響をほとんど受けません。何十年経っても、色あせたり、塗装が剥げたりすることがなく、新築時の鮮やかな色合いと美しい光沢を、半永久的に保ち続けることができます。 - 汚れにくい、優れた防汚性と高い防水性
表面がツルツルとしたガラス質であるため、ホコリや汚れが付着しにくく、雨水で自然に洗い流されます。また、瓦自体が水を吸わないため、カビや苔が生える心配もほとんどありません。この高い防水性は、瓦自体の劣化を防ぎ、非常に高い耐久性を実現する基盤となっています。
釉薬瓦のデメリット・注意点
- 経年変化に乏しいという側面
美しさが変わらないことは大きなメリットである一方、「時とともに風合いを増し、古びていく様(さま)を楽しみたい」といった価値観を持つ方には、少し物足りなく感じられるかもしれません。良くも悪くも、いつまでも「新しいまま」なのです。 - 強い衝撃による釉薬層の「欠け」
瓦自体が割れるほどの強い衝撃(大型の飛来物の直撃など)が加わると、表面のガラス層だけがチップ状に欠けてしまうことがあります。その場合、中の粘土素地が見えてしまいますが、瓦としての防水性能に直ちに大きな影響が出るわけではありません。
いぶし瓦とは?時が育てる、唯一無二の「わび・さび」
いぶし瓦とは、焼き上げた最終段階で窯を密閉し、松の葉やガスなどを不完全燃焼させて意図的に「燻す(いぶす)」という、日本古来の特殊な工程を経て作られる瓦です。この燻化(くんか)によって、瓦の表面に美しい銀色の炭素膜が形成されます。安土桃山時代、織田信長が安土城の築城のために作らせたのが始まりとも言われ、その後、日本の城郭や寺社仏閣、格式高い武家屋敷の屋根を飾り、日本の伝統的景観の象徴となってきました。
いぶし瓦のメリット・魅力
- 見る者を魅了する、唯一無二の美しい風合い
燻された炭素の皮膜によって生まれる、鈍く、しかし深みと品格のある銀色の輝きは、他のどの建材にもない、いぶし瓦ならではのものです。その風格ある佇まいは、建物全体に圧倒的な重厚感と凛とした威厳を与えます。 - 経年による「景色」の変化を楽しむという「可変の価値」
いぶし瓦の最大の魅力、それは時間とともにその表情を豊かに変えていくことにあります。施工後、何年も風雨にさらされることで表面の炭素膜が自然に磨かれ、一枚一枚の瓦に微妙な色の濃淡、すなわち「色ムラ」が生まれます。この、人の手では作り出せない自然なグラデーションが、大きな屋根に「景色」と呼ばれる深みのある味わいをもたらし、時が経つほどにその美しさを増していくのです。 - 瓦が欠けても色が同じで目立ちにくい、素材との一体感
いぶし瓦は、燻す工程によって表面だけでなく、比較的内部まで同じような色合いに仕上がっています。そのため、万が一瓦の角が少し欠けてしまっても、釉薬瓦のように下地の粘土の色が露出して悪目立ちすることがありません。
いぶし瓦のデメリット・注意点
- 色ムラ(経年変化)がデメリットになることも
経年変化を楽しめる一方、常に均一でクリーンな色合いを好む方にとっては、色ムラが出てくることがデメリットと感じられる場合があります。特に、塩害のある地域などでは変化が早く、まだら模様になることもあります。 - 非常にデリケートな取り扱いが求められる
表面の炭素膜は、言わば「お化粧」のようなもの。素手で触ると皮脂が付着してシミになったり、強くこすると膜が剥がれてしまったりすることがあるため、施工時には白手袋を着用するなど、非常に丁寧な取り扱いが求められます。 - 製造が難しく、粘土瓦の中でも高級品
燻化という特殊で熟練の技を要する工程を経るため、大量生産が難しく、粘土瓦の中でも特に高級品として位置づけられています。
【徹底比較表】釉薬瓦 vs いぶし瓦 結局、我が家にはどっち?
| 比較項目 | 釉薬瓦(陶器瓦) | いぶし瓦 |
|---|---|---|
| 製造方法 | 釉薬を塗り、酸化焼成 | 焼き上げた後、燻して炭素膜を形成 |
| 色・デザイン | ◎ 非常に多彩(黒、青、緑、茶、混合色など) | △ 銀色のみ(色の濃淡は様々) |
| 光沢・質感 | ツヤのある、硬質なガラス質 | 鈍く深みのある、しっとりとした光沢 |
| 経年変化 | △ ほとんど変化しない(不変の美) | ◎ 色ムラが出て味わいが増す(変化の美) |
| 価格 | 標準的~高価 | 高価~最高級 |
| 性能・耐久性 | ほぼ同じ(※同じ産地の場合) | |
| おすすめの住宅 | 洋風、モダン、和モダン、南欧風など幅広いスタイルに対応 | 伝統的な和風、純和風、数寄屋造り、古民家再生、寺社仏閣など |
※性能について
「三州瓦」に代表されるように、同じ産地で同じ品質の粘土を原料としている場合、表面の仕上げ方が違うだけで、瓦としての強度、耐久性、耐火性、耐水性、耐寒性といった基本性能は、釉薬瓦といぶし瓦でほとんど差はありません。どちらを選んでも、屋根材としての信頼性は非常に高いと言えます。
まとめ:あなたの美意識が求めるのは「不変」か「変化」か。
今回は、「釉薬瓦」と「いぶし瓦」という、日本の粘土瓦を代表する二大巨頭の違いについて、その製法から美学に至るまで、深く掘り下げて解説しました。
- 釉薬瓦は、多彩なカラーバリエーションを持ち、新築時の鮮やかな美しさを永遠に保ち続けたいと考える方におすすめです。
- いぶし瓦は、時とともに色合いが変化し、住まいと共に歴史を刻み、唯一無二の味わいを育てていきたいと考える方におすすめです。
どちらが優れている、劣っているということでは決してありません。そこにあるのは、美意識と価値観の違いだけです。
あなたがこれから建てる家、大切なリフォームで選ぶ屋根に、どのような「時間」を流したいですか?色の「不変の価値」を求めるのか、それとも「変化していく価値」を求めるのか。
ご自身のライフスタイルや、家に託す想いと向き合いながら、この記事を参考に、あなたにとって最高の、後悔のない一枚を選んでみてください。
クイック屋根工事
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